遺産分割協議と遺産分割協議書

相続が発生して、被相続人が遺言を遺していない場合、相続人間で遺産分割協議を行って、遺産分割協議書を作成し、これに基づいて相続を行います。遺産分割協議は、必ずしも全員が一同に集まって行う必要はなく、全員が協議内容に合意していれば、例えば持ち回り等で合意を取り付けても問題ありません。

この点、よく、各相続人ごとにバラバラに一人の相続人のみが署名・押印する形で遺産分割協議書(「協議書」というよりは、次に述べるとおり「承諾書」)が作成され、登記等の申請に使われることがあります。

登記申請は、最終的には、各登記義務者がその登記申請に対して承諾していることが書面上確認できれば問題ないため、このような書式が便宜上よく用いられておりますし、持ち回りの時間節約のための便法としては確かにそれなりの効用もある方法だとは思います。

しかし、我々弁護士は、極力、遺産分割に限りませんが、協議者全員の合意が書面上明らかであることが要求される書面については、協議者全員の署名・押印を揃えた文書を各協議者=相続人の人数分だけ作成するようにしています。

なぜなら、各相続人単独の承諾書面を揃えるだけでは、書面上、一見して同じ内容に対して協議の上で合意したことが明らかでないことが多いですし、仮に、相続人の人数分、この承諾書面を一体として綴じたとしても、各承諾書面の内容が完全に一致していることが、やはり書面上、即座には解らないことから、無用の混乱をもたらす可能性があるからです。

あと、「協議」とは、一応、他の協議参加者の考えや意見についても聞くことが前提の会議体と考えられていますが、上記のような各相続人単独の承諾書面の綴りだけでは、各人が署名・押印の際に他の相続人の考えや意見について聞いた上で判断したことが、少なくとも書面上からは一見して明らかでない、という問題もあるからです。

あと、上記一体として綴じた上で内容同じであることを担保するためには、本来は割印や契印をする必要がありますが、上記承諾書面の綴りでは、契印を整えることも、それ程簡単なことではないという問題もあるからです。
 
実際に、当事務所で扱わせて頂いた事件で、司法書士の先生からのご相談から始まったものがありましたが、遺産分割協議書が交わされていたにもかかわらず、内容についてきちんと説明を受けていない、だから内容を了解した憶えはない、よって、遺産分割協議書は無効である、という主張をして争ってきた相手方(相続人の中の一人
)がおりました。
 
このケースにおいては、上記承諾書の綴り型ではなく、きちんと相続人全員がそれぞれ署名・押印した協議書を相続人の人数分だけ揃える型でしたが、この型の場合ですらも、上記のように、遺産分割協議書が「無効である」として争ってきたわけです。
 
従いまして、遺産分割等の協議について経験豊富な弁護士程、上記のような主張ないしクレームのような言いがかりを付けられたりしないよう、上記の「きちんと相続人全員がそれぞれ署名・押印した協議書を相続人の人数分だけ揃える型」で遺産分割協議書を作成するように心掛けております。
 
このような流れで、遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書は、上記のとおり、相続人全員が署名・押印し、全員分を作成して、各人が保管します。

そもそも遺産分割協議書がなければ、☆法定相続分と異なる内容での☆被相続人名義預金の解約・払戻や被相続人名義不動産の所有権の移転登記などの相続手続が行えません。
 
逆に言えば、遺産分割協議書があれば、これらの相続手続を行うことができます。
そのため、相続人の1人又は複数人が結託して、勝手に遺産分割協議書を作成し、他の相続人に対し署名・押印を迫ってくることがあります。

このようなケースで安易に署名・押印してしまうと、当然、(☆法定相続分とは異なる内容で☆)預金の解約・払戻や不動産等の所有権移転手続などが進んでしまいます。
納得できない場合は、保留して、専門家である弁護士に、是非、お早目に相談ください。
 
また、それ程揉めそうでない相続人同士であっても、遺産分割協議を行う場合、事前に専門家である弁護士に相談しておくと良いでしょう。

弁護士はあなたの状況や要望を聞き取った上で、どのような遺産分割協議書を作成すべきか、アドバイスを行います。

遺産分割協議の場で不用意な発言をすると、後であなたに不利に働いてしまうこともあります。
当然、あなたと他の相続人の主張が対立しそうな場合には、その対処方法も含めてアドバイス致します。
 
さらに、場合によっては、そもそも遺産分割協議ないし交渉自体を弁護士に代理してもらった方が良い場合もあります。

  • 当事者同士では、遺産分割協議がまとまりそうにない場合
  • 他の相続人が理不尽な要求をしている場合
  • 他の相続人が理不尽な要求をしているが、力関係が不利な場合
  • 相手が口達者で、丸め込まれてしまいそうな場合
  • 他の相続人同士が結託している場合
  • 他の相続人が、税理士や弁護士など、第三者や専門家からのアドバイスを受けている場合
  • 自身で、遺産分割協議を行うことが精神的に苦痛である場合
 
このような場合は、弁護士に遺産分割協議・交渉を代理してもらうことも1つの方法です。
 
弁護士に代理人としての交渉を依頼した場合、当然、弁護士は調停や審判・裁判になった場合の結果を踏まえて交渉を行いますし、あなたの要望にできるだけ沿うように、証拠を集め、相手を説得する方法を考えます。

遺産分割協議が長期化して、その後に改めて調停や裁判に移行するよりも、早い段階で、専門家に交渉を任せた方が、結果として、スピーディーで、あなたの希望に沿った解決になることもあります。
 
遺産分割協議に不安がある場合や、揉めそうな場合、揉めている場合は、是非、一度、専門家である弁護士にご相談されることをお勧めいたします。